世界ALSデーイベント in NAGOYA に参加して、床にごろんしてきた!

今、あなたは何歳で、どんな悩みがあるのでしょうか。


もしかすると「悩みなんてないよ!」という人もいるかもしれませんね。

しかし近頃は終身雇用の限界や年金問題など、未来を不安にさせるあれこれが絶えずニュースに流れてきます。


今まで尊ばれ、そして疎まれてもきた「レールに乗る」ことが、むしろ出来なくなっている現代社会。就職活動をしても"お祈りメール"、即戦力が求められ出来ない人は足切りされる。

そんな時代に生きていると、先の見えない不安に押しつぶされそうになることを、一度でも経験したことがある人は多いのではないでしょうか。


自分の感じる“できない”に苦しみ、現代型鬱病と呼ばれる社会人が増えていく今。

もはや真っ暗闇にも見える未来に対して、私たちは本当に何も出来ないのでしょうか。
そして出来ないことは、出来ないままにしておくしかないのでしょうか。


……もしかしたら自分の悩みは「悩んでいるままでいる必要なんてないもの」なのかもしれない。

そんなことを改めて私に考えさせたイベントが、6月16日、名古屋の愛・地球博記念公園で行われました。


本日のレデソンマガジンは"イベントレポート"です。Ledesone がテーマにする「福祉」に関連した各地のイベントを、運営部が実体験するこの企画。

今回は Ledesone 運営部のライター:しーちゃんが潜入してきた「世界ALSデー in NAGOYA みんなでゴロンしよう!」の様子と感想をご報告します。

ALS だけでなく福祉関係のイベントに興味がある人はもちろん、そんなの興味がないよ…という人にも、こうしたイベントに参加する意義を感じてもらえたら嬉しいです。


こんにちは、はじめまして!Ledesone 運営部のしーちゃんです。
Ledesone に参加してまだ日は浅いですが、はじめてのイベントレポートをお届けします。


そもそも ALS って知ってる?

今回のイベントは6月21日の「世界 ALS デー」に関連したものです。

皆さんは ALS についてご存じでしょうか。

ALS の正式名称は、筋萎縮性側索硬化症。

全身の運動神経に障害が起こり、筋線維が徐々に委縮する進行性の病気です。

進行度合いは人によって異なりますが、歩けなくなることはもちろん、話すことや食べること、自力での呼吸も困難になり、人工呼吸器をつける等延命治療を施さなければ3~5年で患者は死亡するという過酷な病です。


国内の患者数は9,557人(平成29年度末時点)。
10万人に7~8人の割合で発症すると言われています。
発症する年齢は50歳以降で特に増え、男女比は男性のほうが多い傾向にあります。

今後、高齢化社会を迎える日本において ALS 患者は増えていく可能性は容易に考えられるでしょう。



徐々に認知が広がるALS


2014年、テレビや SNS などで一時話題になった「アイスバケツチャレンジ」の様子に見覚えがある人もいるのではないでしょうか。日本ではトヨタなど大企業の社長や有名人の木村カエラさんなどアーティストたちが行い、一躍ムーブメントになりました。


運動の発端は海外で、ALS の啓発と研究資金を集めるために始まりました。

ビル・ゲイツやスティーブン・スピルバーグなどの有名人を中心に、リレー形式でバケツに入った冷たい氷水をかぶる「アイスバケツチャレンジ」。
賛否両論はありますが、これにより ALS のことを知る人が増えたのは間違いありません。


またブラックホールや宇宙論の研究で「車いすの天才科学者」と呼ばれるイギリスの物理学者スティーヴン・ホーキング博士が、21歳のころから ALS 患者であったことは有名です。



彼の人生は映画化し、物語ではALSに触れられ、世界中の人がこの病気を知りました。



日本で大人気の漫画「宇宙兄弟」(作:小山宙哉)の中でも登場人物が ALS と闘っています。

このように、徐々に広く認知されるようになってきた ALS。
しかし「難病中の難病」と言われるように、いまだ有効な治療法は見つかっていません。日々研究や啓発活動が行われています。


「世界 ALS デー in NAGOYA みんなでゴロンしよう!」


ALS の国際同盟は日照時間の変わり目である夏至、6月21日を「世界 ALS デー」としました。
日本各地でもその日に合わせた啓発活動が、毎年行われています。

2019年6月16日、愛知県名古屋市にある愛・地球博記念公園、地球市民交流センターで行われた「世界 ALS デー in NAGOYA みんなでゴロンしよう!」は、毎年開催されているALSのイベントです。

入場料は無料で、ALS 当事者もそうでない人も、誰でも参加することが出来ます。

このイベントは名古屋を中心とした介護施設を運営する「株式会社フロンティア」がサポートしています。


会場に潜入!どんな雰囲気なの?

愛・地球博記念公園といえば、2005年に愛知万博が行われた場所。
名古屋市営地下鉄東山線、藤ヶ丘駅からリニモに乗って「愛・地球博記念公園駅」で下車します。
普段乗らない静かなリニモに近未来感を感じながら、降り立った現地はとても鮮やかに晴れていました。

このドームを降りていくと、地球市民センターです。

今回のイベントは室内ではなく、屋外と接した広場で行われていました。
ステージとその周りにブースがあり、パンフレットやグッズの販売、福祉機器体験の設営がされています。
ステージで行われるメインイベントを楽しむもよし、周辺のブースで車椅子の試乗や、キッチンカーによる飲食を楽しむもよし。
訪れた人はまるでフェスやお祭りのように、自由に会場を行き来します。

一般的なイベントとは異なる点が、車椅子に乗る方々が多く参加されていることでした。
ALS 当事者や動けない障害を持つ方本人はもちろん、その家族や友人らしい人々が楽し気に談笑している姿が見られます。福祉に興味関心がある人が積極的に体験ブースでスタッフさんに質問している様子も。
休む場所が必要な方々のためのケアルームも完備されていました。

会場が市民の憩いの場である愛・地球博記念公園ということ・入場料が無料なことで、特に関係者でなくともふらりと立ち寄る方も多いようです。

訪れている人々は子連れの親子が比較的目立ち、年齢層は赤ちゃんから高齢の方まで非常に広く、まさに「ボーダーレスでバリアフリー」の開けた雰囲気がイベント会場には漂っていました。


イベントの内容は?

ALS 関係者の講演(パフォーマンス)・ワークショップ・展示販売が主な内容です。

みんなでゴロンしよう!ってどういう意味?


このイベントのタイトル「みんなでゴロンしよう!」は、訪れた人にALS患者と同じ感覚の体験をしてもらうワークショップです。

ALS 患者は手も足も声帯もほとんど動かすことが出来ません。
そんな彼らの日常を体感するために、5分間、会場の床に寝ころび、黙ってジッとする。
ほんの少しの間ですが彼らの時間に触れたとき、私たちはどのようなことを感じ、考えるのでしょうか。
訪れた人は全員、黙って床に体を預けます。
冷たい床に寝転んで天井を見上げると、さまざまな音が聴こえてきます。

外で楽しそうにはしゃぐ子供の声や、なにか大きな物音。
……とても気になります、でも首を動かして見ることは出来ないのです。
頭の中にはモヤモヤが広がるばかり。少し鼻が痒くなってもかくことは出来ません。

プロスポーツ選手のように動こうとするのではなく、ただ単純に「鼻をかく」ということすら出来ない。
体の自由を奪われ、思い通りに動けなくなることで、どれだけ自分が無力になるのかを思い知らされました。

疲れて寝るために横になるのとは違います。
意識がハッキリしているまま、寝たきり状態になるのです。

もしこれがずっと続いていくとしたら……恐ろしさに、5分がたった合図で体を起こした時、ホッとしました。

ALS を発症した患者の多くは、今まで当たり前のように生活をしていた人です。
大学生、スポーツ選手、広告デザイナー、研究者……
原因の分かっていない ALS は、私たちの周りにいる人、私たち自身も発症する可能性があります。

泣きたくなるほど無力さを感じるこの病気に対して、どんなことが出来るのでしょうか。


ALS と向き合う人々のステージ


ステージでの講演やパフォーマンスが、私たちに ALS について考えるヒントを与えてくれます。
今回、ステージに登壇したのは4名。
・ロボットコミュニケーター 吉藤オリィさん
・元中日ドラゴンズ 立浪和義さん
・コミュニケーションクリエイター武藤将胤さん
・大事マンブラザーズ 立川俊之さん


吉藤オリィさん:OriHime で実現する「サイボーグ時代」


ALS で最も辛いであろうことが、「できない」と感じる物事が増えていくこと。
手を動かせない、歩けない、起き上がれない、食べられない、話せない……ALS では体は動かなくなるものの脳や心は病気の影響を受けないため、病気が進行しても患者はみなしっかりとした考える力と意思を持ち続けます。しかし思い通りに振舞えないため、孤独や疎外感を強く感じることが多いのです。

こうした辛さをテクノロジーで解決しようとしているのが吉藤オリィさん。

「黒い白衣」から傘やパソコン、あげくの果てにはタピオカドリンクまでひょいひょい取り出す。
猫型ロボットもびっくりのパフォーマンスで会場を一気に虜にしたオリィさんは、自身の紹介から ALS 患者へのテクノロジーによるアプローチ、そして「誰もが使いたくなる福祉機器」と、いまとこれからの現場について語られました。

できる、を可能にした「OriHime eye」

従来、ALS の医療現場で患者との意思疎通は介助者2人がかりで行われていました。
まず1人の介助者が50音が書かれた透明な文字盤を患者に見せます。
患者が伝えたい文字へと眼球を動かすその動きに合わせて介助者が文字盤を移動させ、
隣にいるもう1人の介助者が読みとる、というアナログなものです。
しかしこの手法は患者以外の人が読み取りを行うため、
患者が伝えたい内容に誤差が生じる可能性がありました。

この透明文字盤でのコミュニケーションを、オリィさんはデジタル化。
それが、自動で眼球の動きを読み取り、コンピューターの入力に反映・読み上げまで可能にした意思伝達装置「OriHime eye」です。

これによって、ALS患者は自由に自分の意思表示が出来るようになりました。すでに全国各地の医療現場に導入されています。

会場内の体験コーナーで、私も OriHime eye を使用してみました。
視線で入力するというのはどのような感覚かイメージ出来なかったのですが、思った以上に精度が高く驚きました。画面上の見たい部分を見るだけでカーソルが勝手に動き、ストレスがありません。慣れればキーボードや音声入力より速そうで、自分が仕事で使ってみたくなるほど……
この OriHime eye は、分身ロボット OriHime (写真右上の白いロボット)と合わせて使うこともできるのが一番の特徴です。

カメラや音声装置を搭載した OriHime により、寝たきり状態の人でも自由に周囲を見回し、写真を撮影したり手を挙げたりするなどのジェスチャーをして、周囲の人と話すことが出来ます。
キーボードやマウスを操作する手段が手ではなく「視線」になっただけで、体が動いていた時と同じように Twitter や Facebook など SNS に投稿することも出来ます。

他人に会うことや言葉を発することが出来なくなり、コミュニケーションが希薄になりがちな ALS 患者ですが、OriHime eye を通じて広く他者とつながることが出来るようになったのです。
実際に、愛知県の会場にはこの OriHime eye を利用して関東や九州から参加し、イベントの様子を楽しむALS患者さんたちがみられました。

人が生きている間に最も辛いことは、どうしようもない孤独にさらされることでしょう。
意識も心も健常者と変わらずハッキリしているのに、その場から動けず話すことも出来なくなる ALS患者は、まさにその孤独に苛まれてしまいます。
しかし OriHime を通しとても楽しそうに"語る"患者さんたちの姿を間近に見て、私は心が打たれました。

彼らの孤独を解消するためのロボットコミュニケーター・吉藤オリィさんの活動は、本当に大勢の ALS 患者を救っています。

立浪和義さん:スポーツの世界で友人が発症した ALS


元中日ドラゴンズ選手の立浪和義さんは、小学校からの同級生で PL 学園時代のチームメイトを ALS で亡くされた経験を語りました。
このチームメイト・伊藤敬司さんは 1987 年 PL 学園が春夏連覇を達成したときの正捕手で、当時立浪氏は PL 学園野球部の主将でした。

ALS と闘った彼らのストーリーは書籍化され、全国の図書館に寄贈されています。

ALS 当事者のそぐそばで関わってきた立浪さん。
当事者の周りにいた方の経験を私たちが正しく知ることは、障害に対する偏見や未知の恐怖という壁を乗り越え、互いが手を取りあうために必要不可欠であると改めて思います。

武藤将胤さん:NO LIMIT, YOUR LIFE.


手足の自由が限られている人でも簡単に、スタイリッシュに着こなすことができるボーダーレスウェアブランド「01(ゼロワン)」や、介護保険が使えない若年 ALS 患者向けパーソナルモビリティ「WHILL」のカーシェアリングプロジェクトなど。
ALS 当事者やその周囲の人達の可能性を拡げるプロジェクトを続けているのが、武藤将胤さんです。

今回は、メガネ型ウェアラブルデバイスを使用してDJ・VJ(アーティストやDJの後ろに流れる映像を表現するビデオジョッキー)活動を行う「EYE VDJ MASA」としてライブパフォーマンスを行ってくださいました。


普通の車椅子とは異なり、DJ・VJ機器を使用するため高さ調節機能を持ったハイテクノロジーの車椅子。

武藤さんはある程度の発声や、体を動かすことが可能なので、曲に合わせて体を揺らしたり気持ちよさそうに目を閉じ、音楽に浸る姿が見られました。

指先の細かな動きで機器を操作するのが DJ ですが、彼は視線入力装置を見つめ眼球を動かすことで音やビデオ映像の切り替えなどをします。バックのスクリーンにはエフェクトやメッセージが曲に合わせて流れていきます。

真剣な面持ちで曲を奏で、光と音に包まれた彼の姿はびっくりするほどカッコよく、寝たきりで介護が必要な弱いイメージを持たれやすい ALS 患者の姿を、根底から覆すものでした。

会場の人々は食い入るように武藤さんの姿を見て音楽と一緒に手をたたいたり、背後に流れる画像を楽しんでいました。
もちろん、OriHime も一緒に見つめています!

堂々とステージに立つ武藤さんを見ていると、今まで感じていた障害者へのイメージがどんどん壊されていきました。

障碍者は弱くて保護されるべき人ではなく、きちんと自立できる人間であること。
自分で動けない、という絶望的な状況でも自分以外(機械)の力を借りて動く、するとこんなにも輝けるのです。

初めて「障碍者」と呼ばれる人々に対してカッコいい、という心からの思いを持ちました。

武藤さんの動画は YouTube にもアップされています。


誰もが使用したくなる、カッコいい福祉機器


障碍や福祉の世界、ましてや難病というものが自分に関係あるなんて、健康である時にはなかなか思えないものです。従来の車椅子や福祉機器も武骨なデザインで「障害者だけのもの」という線引きが明確に感じられる、触れづらいものでした。

しかし今回講演してくださったオリィさんのオリィ研究所をはじめ、福祉業界では「障碍者だけでなく、誰もが乗りたくなる・使いたくなる福祉機器」の実現に取り組む動きが進んでいます。

例えば、体験コーナーで試乗したハイテクな車椅子。
スタイリッシュでアウトドアチェアーのようなデザインは車椅子とは思えません。
バッテリー式で速度が8kmまでボタンで切り替えられ、バック走行もレバーを感覚的に動かすだけで可能です。小回りが利き、力もいらないのでスイスイ走行することが出来ます。
当事者が利用しやすいだけでなく、デザインがシンプルで軽量化されており、周囲の人による車椅子の上げ下げも格段に楽になるでしょう。

当事者と周りの人を互いに生活しやすくする福祉機器。
技術発展の素晴らしさを、改めて体感することが出来ました。

ALSや福祉に関心がなくても、イベントに訪れるべき理由


私は ALS の当事者でもなく、関係者でもありません。
しかしこうしたイベントに参加することは、今まで知らなかったことを当事者の視点はもちろん、それを支える人の側で捉えられるようになります。

どのようなことが現場では可能になっているのか、どういう機器があるかを知ることで、

もし身近な人や自分が動けなくなった時に、頼る選択肢が増えるのです。


知ることで、出来ないことは出来るようになるのです。

さらに、実際に辛さを抱える人を救う活動やカッコよく生きる当事者の姿を目にすれば、どのように自分はこれから毎日を大切に過ごせばいいのか、改めて考えるきっかけにもなります。

VDJの武藤さんのパフォーマンスでスクリーンに流れた「NO,LIMIT.YOUR LIFE.」に、私はとても感動しました。

呼吸すら自力で出来なくなってしまう"限界"を持つ ALS 当事者が、どうしてそんな言葉を伝えることが出来るのでしょうか。

それはきっと「孤独ではない」からです。

孤独にならないために自分で病を受け入れ、悩んだら外に頼る選択をして、周囲と共に希望を持って生きている。

「限界」というものは、知らないことが多く頼れるものがないときに、自分で作ってしまうものなのだと改めて思いました。

ALS 患者のひとりであったスティーブン・ホーキング博士もこう言っています、

「何ができないかを無念に思わないこと。身体的だけでなく、精神的にも障害者になってはいけない」。




立川俊之さん:エンディングミニライブ

エンディングはミニライブで、歌手の立川俊之さん本人が登場。
「それが大事」を会場の人々と一緒に歌いました。

動けなくなる難病ALS に関するイベントでしたが、とてもアクティブで終始盛り上がった1日でした。

おわりに


青空の下、すうっと私の横を体験コーナーの車椅子で通り抜けていった女の子が「この車椅子、カッコいい!でもあの人の車椅子もカッコいい!」と、訪れていた車椅子ユーザーの方を見てにっこり笑います。

関東の患者さんに繋がったOriHimeの前で微笑んでいるのは、愛知県にいる同じくALS当事者の方。

リニモに向かう障碍者と健常者が当たり前のように並んでいる姿を見て、新しい世の中に、私は期待せざるを得ないのでした。


そう、きっと未来は、真っ暗ではありません。




取材・ライター:萩原郁実(しーちゃん)





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